190226 レモンズ

©川夏子/KADOKAWA

諸外国に比べると普及はかなり遅れていた日本でも、今や電子書籍は大きな需要を生みつつある。ネット通販なら即日か翌日には手に入る時代だから、書店で本を買う機会が減った人も多いだろう。しかし、紙の本を愛する層も必ず一定の割合でいるもので、この『レモンズ ぼくら海辺の本屋さん』(川夏子/KADOKAWA)は、社会人になり損ねた落ちこぼれ男子三人が奮闘して、地方で書店を始める物語だ。

幼い頃に叔父の書店に憧れて、将来はそこを継ぐと決めていた純。就活に失敗した友人二人を誘って訪れてみると、そこには「テナント募集」の看板があった。夢ばかりを見て現実を考えていなかった純に、大きな課題が突きつけられる。友人との会話や叔父とのやりとりの中に、夢や理想を追うことと、地に足をつけて現実を生きることの違いをまざまざと見せつけられて、自分の中にまったく具体案がなかったことに純はやっと気付いた。

叔父が店をたたんでいるなど考えず、理想の書店像は思い描けてもそれを実現させる方法を見つけられない。自分の非力さを思い知らされながらも、純は友人や叔父に助けられながら少しずつ前進していく。まったく性格の違う友人にもそれぞれに抱えるものがあり、それが相乗効果となって書店作りを前進させ、お互いを成長させ合えているところに「青春のきらめき」のようなものが感じられる。

そもそも、無能な人間などいない。ただ前に進む勇気がなかったり、失うことを先に考えて恐れていたり、夢見がちだったりするだけで、それは決して悪いことではないのだ。失敗から学ぶこともあれば、人に助けられることもある。そんな温かい場所を作ろうとしている彼らを、じっくりと見守りたい。

(担当ライター:桜木尚矢)

 

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