日本で生まれ、海外でも広く愛されるバトル漫画は『NARUTO』『ドラゴンボール』のような正統派が多い。才能ある熱血主人公がトレーニングを重ね、卑劣な悪役を倒していく王道パターンだ。しかし最近、その逆路線をいく格闘漫画『喧嘩商売』と続編『喧嘩稼業』(木多康昭/講談社)がファンの熱い支持を集めている。
主人公の佐藤十兵衛は、いじめられっ子の過去を持つ高校生。自分の弱さを克服するため修業に明け暮れ、周囲からはケンカ自慢として知られるようになる。だが恵まれた体格とケンカ術をもっても、彼の前に立ちふさがる不死身のヤクザ、各分野の頂点を極めたプロ格闘家たちには歯が立たない。そこで十兵衛は厳しい古武道の鍛錬を続けながら、同時にひたすら“卑怯”な戦い方を編み出し続けるのだ。
素手の相手に凶器を使うなど当たり前、敵の一番のトラウマ(母親との離別)をネタに心理的揺さぶりをかけたり、あげくはドーピング薬や猛毒まで躊躇なく使用したりする。戦い方としては完全に悪役キャラである。しかし一方、「世の中に平等など存在しない」「不平等ならそれを利用してやる」「自分は弱いんだから当然うそもつくさ」と徹底したリアリズムが根底にあり、ダーティーな戦い方ながら感心させられる場面も少なくない。
日本人は昔から正々堂々を美徳とする価値観があり、世界に誇っている。だが何ごとにも真面目に取り組みすぎる気質は、個人レベルでは過重労働の蔓延、国家レベルでは他国との外交戦で後れを取るなど、必ずしも報われてきたわけではない。意地を貫くために主人公が堂々と手を汚す『喧嘩商売』が人気なのは、そうした価値観に変化が出てくるきざしなのかもしれない。
(担当ライター:浜田六郎)