もしも親しい相手がかつて殺人を犯していたとしたらどうだろう? 家族、親友、恋人──どんなに相手を知っていて信じていても、心のどこかに不信感がないと言い切れるだろうか? 『僕の名前は「少年A」』(原作:君塚力 作画:日丘円/スクウェア・エニックス)は、そんな人間心理の核心をえぐる作品だ。
13歳の頃に、好きな女の子を守るために教師をバットで殴殺した「少年A」こと貴志。教師は少女をレイプした上、その様子を動画で撮影していて「バラせば全部ばらまく」と脅していたのだ。13歳の少女に逃げ場があるはずもなく、笑顔が失われ挙動もおかしくなっていく。それに気付いた貴志がレイプの現場に居合わせ、すべてを終わらせた。ただ怖いのは、実は貴志が本当の犯人ではないことだった。それはどんなに信じている親や親友にも言えない。
入れられた施設で中学を卒業した貴志は、少年法に守られレベルの高い高校に合格し、3年後には何事もなかったかのように普通の学生に戻っていた。そこへあらかじめ仕組まれていたかのように、教師の3年目の命日から「少年A」への復讐が始まる。本名や自宅、家族の名前や学校までSNSに上げられ、地獄の日々を耐えるのは貴志一人だけで済む話ではなくなった。16歳になろうとも子供は子供。自分だけが耐えていればいいと思っていたのは、幼稚で無知な希望的観測だったのだ。それから徐々に「少年A」を名乗るアカウントが貴志の日常を脅かし始める……。
今の時代、SNSを使っていない若者の方がレアなほどで、皆がその情報の真偽を疑いもなく鵜呑みにする恐ろしい世の中だ。本作ではそんなネット社会ならではの恐怖が、リアリティを伴って表現されている。
(担当ライター:桜木尚矢)