アジア圏でファンを増やす『孤独のグルメ』がアニメ化されるなど、話題に事欠かない日本のグルメ漫画。そんな中、新たな発想を盛りこんだ異色作品『人魚姫のごめんねごはん』(野田宏・若松卓宏/小学館)がネットユーザーから注目を集めている。
主人公は魚たちとともに海中で暮らす、心やさしい人魚姫・エラ。ある日、彼女は大切な仲間の鰹男(かつお)が釣り上げられたと知り、弔うために擬態して人間社会を訪れる。無惨な姿(魚料理)を見てショックを受けるエラ姫だったが、供養の一環として料理を口にしたところ、あまりの美味しさに我を忘れてむさぼり食ってしまう。それ以降、エラ姫は誰かが捕獲されるたびに地上へ行き「仲間がかわいそう」「野蛮な人間の作った料理なのに」「でも美味しくてたまらない……!」と、苦悩しながら魚介グルメを堪能するのだった。
かわいい絵柄とコメディ調の物語であるが、なかなか深いテーマ性を秘めている。登場するのは、刺身、寿司、鍋など私たちになじみある魚料理ばかり。にもかかわらず主人公のエラ姫にとっては、あらゆる意味で「これまで食べたことのない、本来これからも食べるべきではないタブーな料理」なのである。
“立場が変われば同じ食べ物でも見方が変わる”というのは重要なことだと言える。たとえば日本人は伝統的な捕鯨文化を一部の国から批判されているが、同時に犬猫を食べる他国の伝統に嫌悪感を持つこともある。また、欧米に増えているビーガン(完全な菜食主義者)の思想になじめない人もいるだろう。異質な食文化と接したとき、なにを感じるか、どう振る舞うべきか。本作を読むことは、それを考えるヒントになるかもしれない。
(担当ライター:浜田六郎)