最近の漫画界の特徴として、日本の伝統文化を積極的に採り入れようとする風潮がある。特に書道、なぎなた、競技かるたを扱った作品はそれぞれヒットを飛ばし、アニメや実写化されるまでになった。そうした中、新たに『川柳少女』(五十嵐正邦/講談社)が登場して、こちらも好評を博している。
主人公は高校に入学したばかりの美少女・七々子。おっとりした性格でしゃべるのが苦手な彼女は、いつも短冊を持ち歩き、言いたいことを五七五の川柳にして相手へ伝えている。そのこだわりは徹底しており、授業中の教師との会話、家族とのやりとり、告白への返事まで、すべて川柳を使って会話するほど。そんな七々子と、コワモテだけど根はやさしい毒島くん、ツッコミ上手な部長を合わせた文芸部を中心に、にぎやかな日常風景が描かれる。
古きよき川柳をメインテーマにしつつ、ほんのりラブコメ要素も入った癒しテイストの本作。やはり人気の理由は「短冊に書いた川柳だけで会話するヒロイン」の存在だろう。実のところ近年、日本では無口な漫画キャラクターが目立っており、しかも脇役ではなく主役級に多くなってきた。彼ら彼女らは直接声を出さないかわりに、筆談、あるいは自身の作品や行動を通じて他者とコミュニケーションを取っていくのだ。
漫画内にかぎらず、現実の私たちも直接しゃべることなく意思伝達する機会が増えてきた。メール、LINE、ツイッター、ネットゲーム……どれも文字のやりとりが主体だが、さほど不自由とは感じない。『川柳少女』の七々子のように風変わりなキャラクターが違和感なく受け入れられるのは、現代人のコミュニケーション手段が多様化した証拠なのかもしれない。
(担当ライター:浜田六郎)