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伝統と歴史を尊ぶ日本人は“職人の技”に敬意を払う気質で、それは漫画の題材にも活かされてきた。料理人がその代表格だが、ほかにも芸術家、武道家、はてはビジネスの達人まで、数多くの職人が漫画の主人公を張っている。そんな中、注文靴の職人を扱う作品『IPPO』(えすとえむ/集英社)が好評なので紹介したい。

主人公はイタリア人の祖父をもつ青年・一条歩。両親の離婚を機に単身フィレンツェへ渡り、靴職人の祖父のもとで達人の技を身につけてきた。そんな彼が日本に戻り、注文靴(ビスポーク)の店「IPPO」を開店したところから物語は始まる。訪れる客は「カッコいい靴を作りたい」「交通事故で片足を失った」「亡き父の靴を再現してほしい」など、さまざまな理由・事情を抱えている。そんな人々のオーダーに対して若き靴職人が、どんな回答を出すのかが見どころだ。

洋服と同じく西洋の革靴のオーダーも日本人にとっては馴染みが深いとは言えず、既製品をそのまま買うかセミオーダー程度で済ませてきた人は多いだろう。だが調べてみるとスーツも靴もフルオーダーを扱う店は全国至るところにあり、顧客の支持を得ているようだ。そうした世界を漫画で垣間見られるのはおもしろい。

また本作は、あえて派手な描写を排除しているのも特長だ。一昔前のグルメ漫画のように職人同士の「靴作り対決」などがメインではない。あくまで職人が対峙するのは“顧客からの注文”であり、それを満たすため全身全霊を傾ける。ある意味で究極の職人像がそこに描かれているのだ。一見すると地味かもしれないが、たしかな情熱と揺るぎない信念がある。こんな作品を描ける漫画家もまた、紛れもない職人であると言えるだろう。

(担当ライター:浜田六郎)

 

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