©さの隆/講談社

©さの隆/講談社

認めたくはないが、それでも現実を直視すれば、今も昔も変わらず暴力はどこにでもある。学校で「イジメ」と称されていたものが、社会人になれば「ハラスメント」と言い換えられるだけで、根本的には何も変わっていないのだろう。

 

『君が僕らを悪魔と呼んだ頃』(さの隆/講談社)の主人公・斎藤悠介は、15歳にして悪魔の如き壮絶な、イジメなどという生易しい言葉で表現しようのない私刑や拷問・性暴行などの悪行を尽くしていた──らしい。何故はっきりわからないのかというと、ある半年間の失踪後、発見された時にはそれまでの15年分の記憶をすっかり失っていたからだ。母親の顔すらも覚えておらず、新しい環境で高校生となる。

 

しかしバイト先に、当時悠介から逃げた被害者がいた。何も気付かず思い出しもせず、楽しそうに人間面で過ごしていた悠介に彼は「オマエは未来永劫過去に復讐され続ける」と残して去る。翌日学校前に現れた、悠介の親友を名乗る会澤の手のひらには、ありえないほどの大きさのキレイな穴が空いていた。それも悠介がやったのだと言う。しかし会澤は悠介にどうしても記憶を取り戻してもらう必要があるらしく、取引を持ちかけて悠介に悪魔だった頃の記憶を取り戻させようとする。

 

協力者なのか脅迫者なのかも曖昧なまま、会澤と共に悪魔の記憶探しをする悠介。やがて会澤の欲しかったものは手に入ったものの、悠介は断片的にしか記憶が戻らず、誰に何をしたのかも覚えていないまま……。

 

加害者には記憶がない遊びも、被害者の記憶からは生涯消えることのない壮絶な傷だ。果たして記憶喪失の悠介の本当の罪とは何なのか? そして何故記憶をすべて失ったのか? 謎に迫るたびに再び悪魔は──?

 

(担当ライター:桜木尚矢)

 

スマコミバナー_ブログ記事用_400w90h