©かねもりあやみ・久住昌之・青江覚峰(秋田書店)2015

©かねもりあやみ・久住昌之・青江覚峰(秋田書店)2015

温故知新という言葉が示すように、ファッションもエンタメも古いものが見直されることは少なくない。常に最新トレンドを取り入れ続ける日本のグルメ漫画にもそんな傾向があり、近ごろは伝統的な精進料理を扱った『サチのお寺ごはん』が人気を博している。

主人公の臼井幸(うすいさち)は名前の通り、いまいち幸運に恵まれない27歳の女性。仕事もプライベートもうまくいかず「期待したら負け」という人生観を持っていた。普段から食事も適当にコンビニ飯で済ませていたが、ある日ひょんなことからイケメンに誘われ、連れて行かれたお寺で精進料理を食べることに。その出会いをきっかけに、幸はゆっくりと“自分の幸せ”を模索しはじめる。

本作でユニークなのは精進料理をテーマにしたことと、必ず住職の説法が語られることの2点。精進料理は肉や魚を一切使わず、油や調味料さえすべて植物性に限られるのだが、突き詰めると奥が深い。大豆でだしを取った「なすの利休汁」などのレシピが詳しく紹介され、昔ながらの日本文化を知ることができる。また、食事と同時に「こだわりを捨てる」「他人と自分を比べない」など仏教の教えを住職が語るシーンがあり、幸は料理のレシピと一緒に“人生のヒント”を毎回持ち帰る。そうして少しずつ前向きに変わっていくのだ。

女性誌での連載ということもあって寺にいる男性キャラは全員(住職含めて)若いイケメンだが、作風にうわついたところは一切ない。読んでいて癒されると同時にきりりと身の引き締まる思いがする、おもしろい作品だ。精進料理・仏教・悩める女性……この3つを結びつけて良質なエンタメにしてしまうあたり、これぞ日本漫画の奥深さと言えるだろう。

(担当ライター:浜田六郎)

 

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