芸能界やスポーツ界、その他著名人による覚醒剤の所持や使用に関するニュースを耳にすることがよくある。有名人だけではなく、いわゆる“脱法ドラッグ”が一般人でも簡単に入手できるようになり、それによる交通事故なども多発している日本。薬物は依存性が高く、なかなかその呪縛から抜け出すのは難しいと言われているが、それは違法である薬物に限った話ではない。
今、非常に話題になっているノンフィクションコミックエッセイ『酔うと化け物になる父がつらい』(菊池真理子/秋田書店)は、読んでみると想像以上につらい。ほぼ常に酔っ払っている父、新興宗教にハマっていて朝と夜に長時間勤行する母。休日には自宅に父の友人が集まり、酒を飲みながらの麻雀が朝まで続く。たとえ翌日にプールに行く約束をしていても、一度もそれが守られたことはなかった。
シラフの時は無口でおとなしい小心者なのに、ひとたび酒が入ると別人のように豹変する父が怖くて、主人公はいつも妹と2階の部屋に逃げていた。やがて我慢しきれなくなって家出した母だが、主人公の説得で一度は戻ってきたものの、その後間もなく自殺してしまう。普通ならそれを「アル中の父のせいだ!」と怒りをぶつけるのだろうが、主人公は「私が母を置いて逃げたからだ」と自分を責めてしまう。
漫画としてはこれはまだ第1話であり、アル中の父を持つつらさは、母の死以上にどんどん増していく。何よりつらいのは、主人公自身が自分の性格の歪みを自分のせいだと思い込んでいて、誰にもSOSを出さないこと。悪いのは父に優しくできない自分、他人を許せない自分……。本当に依存症で苦しむのは、本人ではなく家族なのだと知っておいて欲しい。
(担当ライター:桜木尚矢)