空前の、という言葉はようやく外れたようだが、いまだに猫人気の高い日本。飼いやすさや人の生活環境の変化などの様々な要因が絡み合い、実際に2017年には飼育頭数が犬を抜いた。ペットショップで売られている猫の価格は、平均的なサラリーマンの月収を超えるものさえあり、愛猫家がSNSに自宅の猫の写真を投稿すれば、人気が出て写真集が発売されるような現象もあった。
そんな中、SNSに投稿された漫画が大変な閲覧数となり、新たなエピソードも加えられて刊行されたのが『おじさまと猫』(桜井海/スクウェア・エニックス)である。鼻の横にブチがあるため「ハナクソ」と言われ、1歳間近になっているせいもあってか価格を下げても買い手がつかないペットショップ猫。そこへ一人の紳士がやってきて、「この猫をください」と言う。猫は「プレゼントしても嫌がられる、返品は嫌だ、期待させないでくれ」と願うが、紳士が店員の質問に返した言葉は「私が欲しくなったのです。とても可愛くて」と──。
紳士にはどうやら深い喪失感があるようで、広い家に一人暮らしと知った猫は心を開き、紳士に寄り添うようになる。そして「出会えたことが幸福だから」と「ふくまる」という名前をもらった猫と、猫を飼うのは初めてという紳士のおっかなびっくりの生活が始まった。猫からの視点と紳士からの視点が交互に描かれ、さらに描き下ろしでは紳士の友人や職場の同僚、猫を売ったショップ店員から見た物語も語られる。どこを読んでも「猫愛」に溢れている。
飼うなら仔猫がいい、可愛くないのは嫌……そんな声もあるが、人と動物だって一期一会。年齢や種類など関係なく、愛があればそれが「ご縁」に違いない。
(担当ライター:桜木尚矢)